キンカンのブログ

気が向いたら書いています。

魔女

南から西を青々とした山に、北は湖に囲まれ、東には街が広がる地があり、その中央にリフラパスという村があった。まだ私が隠れて私の正しいと思う治療を密かにしてたころ

病人が訪ねてきた。60歳位で多分胸部…の奥…悪い臓器らしきものができる病気にかかっていた。今まで見たことのない症例でしかも薬草による治療が主だった女にとっては全く手のつけようのないもの。しかし女は足掻いた。瀉血や穿頭、馬糞の薬ではなく私を、私の治療を頼ってくれたことへの感謝と責任。尽くせる手は尽くした。だがだめだった。悪魔の臓器はゆっくりとだがその体積を増しそれに伴い患者は弱っていく。しまいには患者が死んだあと胸部を突き破って出てくるのではないかと彼女は感じた。そう考えたことを自覚して、論理的に考えられなくなっている自分に恐怖した。しかし女はその瀕死の患者よりもずっと弱り打ちひしがれながらも打開策を求め続けた。目は血走り髪は乱れた。その様を見て今際の際に患者は紡ぎ出すように呟いた「治らなくたって大丈夫よ。貴方がそんなに私のことを思ってくれて、いっしょうけんめいにしてくれたのが有り難いのよ」

女は口の端を左右に引き伸ばして、なんとかすこし、上に上げて笑顔を作ってみせた。見えている景色から色が引いていくように感じた。ただただ口惜しかった。それでは馬の糞の薬と変わらないではないか。慰め程度のものだったのか、私の治療は。息をひきとった患者の墓を掘りながら、そう思った。足りない。時間が。私だけでは。誰かにこれを引き継いでほしい。昔はすべて私一人でやろうとしていたことが懐かしい。間違いを正せると思っていた。現行の医術を。そもそも「間違っている」のか?

手を切って 血を抜いて。

頭に穴を開けて。

馬の糞を 傷口に 塗りたくって。

蛙の油を 上に垂らして。

それで患者が慰められるのなら間違ってやしないんじゃないか。